先輩医師インタビュー 分野 呼吸器内科
2018年11月15日

診療が高度化する今こそ「伝える力」を大切にしたいと思います。

長岡赤十字病院 呼吸器内科 副部長古塩純 先生新潟県長岡市出身・平成17年 新潟大学医学部卒業

現在のお仕事について教えてください。

新潟大学医歯学総合病院、新潟県立中央病院などを経て、現在は長岡赤十字病院で呼吸器内科医として勤務しています。当病院は中越地域の基幹病院として、救急医療、がん治療などの急性期医療に当たっており、様々な疾患の患者さんが来院します。呼吸器内科でも、高齢者の誤嚥性肺炎や喘息から間質性肺炎、悪性疾患など治療対象は多岐にわたります。同時に、治療方法も一般的なものから、今話題の免疫療法などの最新治療まで幅広く大変ですが、また、医師としてのやりがいにもつながり、魅力を感じます。

免疫療法とはオプジーボですか。

ええ、オプジーボを含めた免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療のことです。ノーベル賞受賞というインパクトの大きなニュースになったので、患者さんの関心も高いです。2015年12月から肺がんでも1次、2次治療から標準治療、つまり保険適用となり、免疫療法隆盛の時代に入っています。適用には様々な条件があり、今はまだすべての人に使えるわけではないのですが、以前では考えられないほどの長期生存がかなうケースが出ています。私が研修医だったころは、抗がん剤の治療成績は非常に厳しい状況でした。そのころと比べ、大きな違いを実感しています。かつてないような治療体系の変化を実際の現場で体感できたのは、医師としては貴重な経験です。
ただ、すべてが変化したわけではありません。進行期肺がんの患者さんが置かれた状況は依然として厳しいものであり、患者さんに対する基本的な姿勢に変わりはありません。

それはどのような姿勢ですか。

最期まで患者さんに寄り添うということです。初期臨床研修を県立がんセンター新潟病院で受けたのですが、当時は肺がんで亡くなる患者さんが多く、そういう中で、最期まで患者さんの希望に寄り添い、希望をつないでいく先生方に出会いました。私が目指している医師像に重なり、私もそうなりたいと努力しました。研修2年目に、進行期悪性腫瘍の高校生の患者さんの担当になり、徐々に状態が悪くなる中で症状をどう和らげるか、希望をどう紡いでいくかを必死で考え、向き合いました。医師とはシビアな仕事なのだと実感したのも、治癒が得られない困難な状況に内科医が介在する意味を深く考えたのもこの時です。私の医師としてのキャリアはがんセンターから始まったんです。

がんを専門にされたのは研修の時ですか。

オンコロジー(腫瘍学)を専門にしようと決心したのはそうです。が、そもそも私が医師を目指したのは、中学生の時に祖父ががんを患い、何もできない無力感にとらわれたことがきっかけでした。心の中には、がんで苦しむ人の力になりたいという漠然とした思いがありました。後期研修ではがんに絞らずに、複数の診療科を幅広く経験しましたが、その思いはかわりませんでした。

今後の目標を教えてください。

呼吸器診療は肺がんに限らず様々な分野で検査法や治療の目覚ましい進歩が見られます。常に最先端の治療をキャッチアップしながら、最新・最適な標準治療を地域の患者さんにしっかりと届けられるように取り組んでいきたいですね。長岡は新潟市にも東京にもアクセスがよく学会や研究会に参加することにおいては非常に便利です。もう一つは、研修医の指導です。疾患を診るのではなく、患者さんを診ることを伝えていきたいと考えています。今、医学の進歩や高度化によって治療の選択肢が広がっています。それだけに、患者さんのバックグラウンドや希望を踏まえて、可能な治療について説明し、最善の方法を選んでもらうためには「伝える力」が重要なんです。普段の診察や病状説明も含めて、患者さんに向き合い話をすること。たとえば20代と90代で、同じ検査や治療を望むかといえば、御年齢や体力、人生観などで大きく違ってきます。患者さんが主体的に選べるようにするため、しっかりと伝え、一緒に考える。こういった姿勢を若い先生たちと一緒に実践していきたいと思います。

後輩の医師にメッセージをお願いします。

医療をめぐる環境は日進月歩ですが、働き方も同様で、ワークライフバランスが整ってきていると思います。昔は、勤務医は365日24時間PHSを握りしめていたものだと聞いたことがありますが、今は、土日の出勤は当番制の病院も増えてきていますし、上司も理解があります。私の妻も勤務医ですが、新潟県内での転勤では、単身赴任にならないよう赴任先や時期を合わせてもらえるので助かっています。
モノを直すのと違い、「人に関わり、人を治す」仕事は、簡単ではありませんが、やりがいがあります。今は治療が難しい病気でも、研究が進んで救えるようになるという可能性を実感できる仕事でもあります。私は、医師は魅力的な仕事だと思っています。

(所属等は執筆時現在です。)