先輩医師インタビュー 分野 整形外科
2019年09月11日

病院と地域が支え合う、十日町の地域医療を担いたい

新潟県立十日町病院 整形外科科長倉石達也 先生新潟県出身・平成16年 山梨医科大学医学部卒業

医師を目指したきっかけを教えてください。

私自身に記憶はないのですが、2歳で背中に大やけどを負い、小学校高学年まで何度も手術を受けました。かなり深刻な状況から救ってもらったのだと家族から聞いて育ち、実際に入院の度に医師の姿を身近に見ていたので、自然と中学生の頃には医師を目指していました。

もともと手を動かすことが好きなので、学生の頃から外科系を希望していました。それと、新潟県立中央病院での初期研修で熱心に指導してくださったメンターの先生の影響が相まって、整形外科を選択。新潟大学医歯学総合病院や新潟手の外科研究所病院などでの勤務を経て、2019年4月に十日町病院に赴任しました。

ご専門の手外科について教えてください。

新潟県は全国的にも手外科が有名な地域です。手指から肘までの様々な外傷、疾患を対象とする外科分野で、マイクロサージャリーを駆使して切断指の再接着、上肢や下肢の骨や皮膚の再建なども担当します。1955年頃から新潟大学整形外科で診療が始まり、その後、日本で初めて手外科に特化した専門病院が設立されました。その新潟手の外科研究所が主宰するセミナーには、毎年、全国から手外科を志す整形外科医が集まってきます。2019年には光栄にも初めて講師として講座を担当しました。

手という部位は外傷が多く、また複雑な動きを担うことから、神経や血管を縫う技術など機能回復のための方法は多岐に渡り、私自身も常に勉強する姿勢を大切にしています。
現在、十日町病院では、上腕と手外科を担当する私、肩・股関節スポーツ外科担当、股関節外科担当の3名の常勤整形外科医と、大学から派遣される医師らとともに診療を行っています。

十日町病院はどんな病院ですか。

十日町病院は、妻有(つまり)と呼ばれる新潟県十日町市と津南町の拠点病院です。この地域には整形外科医が少ないため、多数の外来患者さんが通院し、当院では年間900例を超える手術を行っています。高齢化率も高く、腰や肩、ひざに不調を抱える高齢患者さんが増えていますが、その多くは普段の生活を変える、自宅で運動を行うことで軽減されるものであり、リハビリ室と連携を取りながら、運動の指導もしています。

地域の魅力の一つは自然の豊かさです。9年前に当院に初めて赴任したときから、転勤後もずっとツールド妻有というサイクリングイベントに参加し続けています。里山や稲田の風景を楽しみながら公道を走るのですが、各エイドで出されるコシヒカリのおにぎりや十日町ソバなどの食べ物はおいしいし、沿道の地域の人たちの応援も温かい。家族全員がこうした環境を気に入ったことが、今回の赴任に繋がりました。

これからの目標についてお話しいただけますか。

今年から整形外科科長を務めることになり、自身のスキルアップだけでなく、科全体や病院を見ながら、スタッフの教育や医師確保にも取り組んでいます。地方において、病院は医療を担うだけでなく重要な拠点でもあるので、病院が活性することが地域活性につながります。だからこそ、スタッフが働きやすい病院を作っていきたいと思っています。

その点ではこの地域には力強い味方がいます。『妻有の里 地域医療・地域ケアを支え隊』という住民組織があり、病院を応援してくれるのです。重篤な患者さんの治療に支障をきたしたり、勤務医の負担が過重になったりないように、適正受診を呼びかけるセミナーや広報を行ってくれますし、我々スタッフにお弁当を差し入れてくれたり、懇親の機会を持ったりと幅広い活動で支えていただいています。一人一人ができることを行って地域全体をよりよくしていこうという取り組みが励みになっています。

医師を目指す人へメッセージをお願いします。

近年AIやテクノロジーの進歩など、医療の最前線は話題に事欠きません。世の中の大半の仕事はAIにとって変わられるとも言われています。医師の診断や治療までもコンピュータが行う時代がくるかもしれない中で、本当に必要なのはむしろ人間的でコミュニケーションや信頼関係を築けるスキルを持った医師ではないでしょうか。人間関係が希薄だといわれる都市部と違い、お互いに信頼し合い、支え合う風土が生きている十日町などの地方では、その本質的なスキルを身に付けることができます。都市部とは違う医療が体感できます。十日町で待っています!

(所属等は執筆時現在です。)