「病気ではなく、人を診る」総合診療の信念を胸に新潟へ
下越病院 研修医千手孝太郎 先生兵庫県出身・令和5年 関西医科大学医学部卒業
「多種多様な顔を持つ、今注目の研修医」とご紹介するにふさわしい、新潟県内各地でさまざまな活動を展開している、千手孝太郎先生。1年目はたすき掛け先として名古屋徳洲会総合病院で研鑽を積み、2年目の現在は下越病院に勤務されています。イノベーター育成臨床研修コースの第2期生でもあり、同期5名で結成したプロジェクトチーム 「T5UNANOVA(ツナノバ)」のリーダーとして津南町でも活躍中。2024年12月に企画・開催された、首都圏の医学生などを町に招き、津南の暮らしと地域医療の現状を知ってもらう「津南医療未来会議」には、新聞社やテレビ局の取材が入るほど注目されました。さまざまな活動が評価され、2024年度新潟県医師会研修医奨励賞最優秀賞を受賞された一方で、地域のボランティア活動に参加したり、小学校の教員免許取得を目指して教員課程を通信で学んだり、狂言師として舞台に立ったりと、まさに多種多様な顔をお持ちの千手先生。今回は、そのルーツや考え方についてお話を伺いました。
新潟県の熱意に心打たれ、アンマッチからの理想的な研修環境へ
―なぜ新潟県を初期研修の地として選ばれたのでしょうか?経緯を教えてください。


実は、アンマッチから始まったご縁なんです。希望した病院のマッチングに落ち、再度イチから病院探しをしようとしていた大学6年生の秋、以前から面識のあった、前新潟県福祉保健部長の松本先生にご連絡したのがきっかけでした。すぐに松本先生をはじめ、新潟県の職員さんたちが親身に話を聞いてくださいました。この時に初めて、新潟県内の病院のことやイノベ枠のことを知りました。皆さんの地域医療にかける熱意と、「君はどんな医師になりたいの?」と誠実に向き合ってくださったことに感銘を受け、「自分もここで(新潟で)成果を出したい」と思い、新潟県を初期研修の場所に選びました。
下越病院には自分が目指したい総合診療医の先生が2人いらっしゃって、健康教室の開催など、地域の方々とのつながりを重視されている環境もすでにあり、「総合診療を学ぶ、理想的な環境だ」と思ったことも大きな決め手となりました。
地域を知ってこそ、人を診ることができる
―地域のボランティア活動などにも積極的に参加されていると伺いましたが、その理由は何でしょうか?


総合診療の一貫として、地域を知るために参加しています。私が高校2年生の時に出会った、ある総合診療医の先生が「病気ではなく、人を診る」と仰っていました。私はこの言葉に衝撃を受け、医師を志しました。「人を診る」ためには、「人を知る」必要があります。人を知るためには、その人が暮らしている「地域を知る」必要がある。地域を知りたくて、その人を知りたくて地域のボランティア活動などにも積極的に参加しているんです。地域特性は、いろんな人としゃべらないと分からないですからね。地域の人と触れ合って初めて理解できるものだと、経験を重ねて実感しているところです。また、私の目指す医師像を「医療に詳しい、まちのお兄ちゃん」と表現しているのですが、地域の方々との交流を通じて、これに近づいている感覚もあります。ボランティア活動中に健康相談に乗ったり、活動で知り合った方が病院に来てくれたり、気軽に声を掛けてくださる関係ができてうれしいです。地域の方々との距離の近さもやりがいにつながっています。
声を上げる者・動く者に対する、新潟県民の温かさに支えられて
―地元の関西、研修医1年目の名古屋、そして今は新潟と、3つの地域で医療に携わってこられた千手先生。新潟県の特徴や地域性をどのようにお感じですか?


新潟県内でも私が関わったことのあるエリア、下越病院のある新潟市秋葉区、津南病院のある津南町での経験をもとに感じていることですが、自然の脅威と隣り合わせの暮らしが地域の特性として表れているのではないかと思います。生活に大きな支障をもたらす雪国では、助け合わないと生きていけません。見返りなくとも助け合いながら声を上げた者や動こうとする者にも温かく、「応援するよ」と言ってくれる懐の深さを感じます。一方で、思いを表現することは苦手と言いますか、良くも悪くも内に籠る文化で、PRは苦手なのかなと感じることもしばしば(笑)。今私が、下越病院を含めた新潟県での研修リクルートに積極的に携わっているのも、「こんなに良いところがあるのにもったいない!もっと知ってほしい!」と思ったからで、恩返しがしたい一心でやらせてもらっています。その活動が認められ、新潟県医師会が主催する研修医奨励賞において最優秀賞を頂きました。
医療を手段の1つとして、「どう生きたいか」に向き合える医師に
―今後のキャリアはどのようにお考えですか? また、医師を目指す方へのメッセージをお願いします。


まず、私の基本的な考えとして、「いろんな医師がいていい」と思っています。専門医はもちろん必要です。そして「人の専門家」も必要だと思っています。私はこの、医療分野と患者さんをつなぐ「人の専門家」としての医師、総合診療医になりたいです。目の前の人が、「どう生きたいか」にしっかり向き合える医師になりたい。そしてその考え方を普遍的に落とし込み教育として繋いでいきたい。私にとって医療は、患者さんの人生を彩りあるものにするための手段の1つなんです。総合診療専門医として多くの方々に伴走し、恩返しできるよう、ここ新潟で頑張っていきたいと思います。
医師を目指す方へのメッセージは、2つあります。「アンマッチも捨てたもんじゃない!」と、「“とりあえずやってみよう!”でOK!」です。アンマッチに関しては先述の通り、私のこれまでを見てお分かりいただけるかと。そして「とりあえずやってみよう!」も、自分の経験から生まれたものです。私は昔から「やらない後悔よりも、やる後悔」と思っているのですが、結果、「やる後悔」なんて無かったんですよね。だから、「やって正解、やって大成功」なんです。小学校の教員免許取得を目指しているのも、自分がなりたい総合診療医の姿に近づくためです。一見連動していないように見えるかもしれませんが、私の中ではつながっています。そして、「とりあえずやってみよう!」と自分が思えたことだから、やっています。こちらについては話すと長くなるので(笑)、詳しく知りたい方は、まちのどこかで、病院で、声を掛けてください。
(所属等は執筆時現在です。)