先輩医師インタビュー 分野 脳神経内科、総合診療科
2021年04月08日

総合×専門の広い視野から、マルチモビディティにアプローチ

新潟県立中央病院 脳神経内科・総合診療科 医長木島朋子 先生新潟県出身・平成20年 自治医科大学医学部卒業

医師を目指した理由を教えてください。

人と深く、直接的に関われる仕事がしたいという思いが強く、生粋の文系でしたが、医師を志しました。地元の上越市もそうですが、新潟県では医師が不足している状況であることから、へき地における医療の確保を理念に掲げる自治医科大学に進学。新潟大学での初期研修後は、上越エリアの病院で総合内科、脳神経内科を診てきました。

その中でも、2011年から7年間身を置いた柿崎病院での経験が、医師としての下地になっています。県内でも高齢化率が高く「ザ・地域医療」という環境で、訪問診療も行いながら、治療と生活、医療と介護の関わりについて考え、掘り下げ、多くのことを学びました。

現在はふたつの診療科を診ていらっしゃるのですか。

学生時代から神経疾患に興味があり、一般内科を経験した後、2018年から新潟県立中央病院で脳神経内科も診ています。脳神経内科は、脳梗塞やアルツハイマー病をはじめとする神経系の器質的変化により症状を発している患者さんを対象とする専門的な領域です。ジェネラルを経験した後に、専門領域に進むことに意味があると私は思っています。というのも、高齢者の多くはマルチモビディティ(多疾患併存状態)で、専門的アプローチだけでは患者さんにとって最良のゴールにたどり着けないからです。

ゴールはひとつではないのですか。

多疾患併存状態に対しては、プロブレムリストを作成してどういう順番でアプローチするかを考えるのですが、疾患によって治療方法が相反する場合、また、医師が思う最良と、患者さんやご家族の最良が違う場合などもあり、どこをどのように治療していくかが人によって違うこともあるのです。

たとえば、高齢の患者さんで、認知症、脳梗塞に加えて、心臓・肺の疾患、整形外科的な問題をお持ちの場合、脳神経科医としては、中核病院での入院を継続し、まず脳梗塞による片麻痺へのリハビリを行うべきと考えました。合同カンファレンスでは、退院後は福祉施設への入居という声が主流でした。しかし、ご本人は「自分のことは自分でできているので、自宅に帰り、これまで通り一人で暮らしたい」とおっしゃいます。医学的には疑問が残るところもありますが、ご本人の価値観、自主性を優先すべきではないか――そこで、思い切って、地域病院に移り、家に帰るためのリハビリを行うことを提案。すると、ある程度動けるようになり、ご自宅に戻ることができたというのです。医学的見地だけでなく、ご本人の思いをくみ取り、広い視野から柔軟に考えることが大切なのです。こういう総合的な視点で治療を進めることを若い人に知ってほしくて、今、医学生や研修医の教育にも関わっています。

医師を目指す方へのメッセージをお願いします。

新潟は、医療従事者も患者さんも温和で優しい人が多くて働きやすいのですが、一方、仕事と育児の両立ではもう少しと思うこともあります。疑問や意見は声に出し、一人ひとりが「何ができる」「何をしようと思う」と発信していけば、働く現場はもっと変わっていくはず。女性も男性も思いを示し、小さな改革を起こしていきましょう。

もうひとつ、全般的に患者さんを診て、組織を有機的に連携させて「横のつながり」を作っていくことが必要な総合内科は、女性特有の力が発揮できる分野ではないかと私は思っています。一緒に頑張っていきましょう。

(所属等は執筆時現在です。)