研修医インタビュー 分野
2024年09月03日

二兎追う者は二兎を得る!医学と陸上の両立を続ける研修医

新潟大学医歯学総合病院 研修医廣田有紀 先生新潟県出身・令和2年 秋田大学医学部卒業

多忙がゆえ、勉強や勤務に集中せざるを得ない、他のこととの両立は難しい、と感じる方も多い医学の道ですが、ここ新潟には、学生時代からずっと「2つのこと」を追い求めてきた先生がいます。サトウ食品新潟アルビレックスランニングクラブ(以下「アルビRC」)所属、女子800m新潟県記録保持者(2024年7月1日現在)でもある研修医、廣田有紀先生です。医学部卒業後(国試合格後)すぐに研修医にはならず、3年間陸上競技に専念されたご経験もお持ちです。今回は医師の多彩な働き方の一例として、廣田先生にお話を伺いました。

それぞれが心の安定につながる、2つのこと

―医学と陸上、この2つを追い求めるようになった経緯と、これらを両立するコツを教えてください。

母が開業医なので、1番身近な職業として医師になることは小学生の時からイメージしていました。その頃から走ることも好きで、最初に800mを走ったのも小学5年生の時。学校を代表して出場した、新潟市の陸上競技記録会でした。中学で部活を決める際、陸上以外の運動部にも体験入部で参加したのですが、とにかく球技がダメで…(笑)。勉強しながら続けるなら、得意なことの方がいいな、と思い陸上部に入部しました。2つのことを追い求めるようになったのは、こんな自然な流れです。両立のコツとしては、とにかく時間の効率化。どれだけ無駄なく完成度を上げるか、要領よくやるかを常に考えていました。そのためには、先を見越して、今何をすべきかを考える。これの繰り返しです。また、私にとってはどちらも「好きなこと」なので、一方で嫌なことがあっても、もう一方でリフレッシュできる。このバランスが良く、心の安定につながっています。

研修医にはならず、陸上競技に専念した3年間

―大学卒業後(国試合格後)に研修医にならない、というのは異例の選択かと思いますが、この時のお考えや経緯、その後の3年間のことを教えていただけますか?

私が知る限り、こういう選択をした人はいないので、確かに異例の選択だと思います。この決定に至るまでには、「卒業後ではなく休学して」とか、「研修医を終えてから」とか、いろんなご意見も頂いたのですが、私としては国試を勢いよく終えてからスッキリと、2021年の東京五輪に向けて集中したいと思い決めました。異例の選択ながら、一番身近なところで「好きなようにしていいよ」と応援し続けてくれた母や、背中を押してくれた秋田大学の皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。研修医にならないための手続きは特になくて、6年生の夏、研修マッチングで大変そうな同期を見ながら私は何もせず(笑)、練習したり、合宿に参加したりしていました。所属するアルビRCが地域密着型の運営方式であることもあり、地域の方々からの声援をたくさんいただき、地元愛を常に感じつつ活動できたことがうれしかったです。陸上のことだけを考えて、丁寧に取り組むことができた貴重な3年間でした。ただ、医学と陸上、両方ある方が心のバランスがとれる私にとっては、苦しい3年間でもありました。

2023年から始まった、研修医と陸上競技との両立

―3年間の陸上集中期間を終え、昨年2023年から新潟大学医歯学総合病院(以下「新大病院」)の研修医になられました。今はどのような状況・心境ですか?

陸上に集中した3年間、医学との接点は、アルバイトで医学生の質問に答えたり、本を読んだりしていたぐらいだったので、このブランクを埋めるために、空いた時間は勉強に使っています。陸上競技との両立に関しては、17時には病院を出て練習に参加できるように、けがの治療も新大病院で受けられるように、など、さまざまな配慮をしていただきました。「陸上を続けるなら地元で」という思いと、練習場所である陸上競技場が近かったことも、新大病院を研修先に希望した理由の1つでしたが、何よりも職場の皆さんのサポートが大きな支えになりました。「試合、見に行くよ」と、職場の方や患者さんからも声を掛けていただいて、本当にうれしかったです。ただ、以前から、2024年6月の日本選手権を一区切りとして「研修医としての生活に重きを置こう」と考えていたため、7月から勤務先を変更し、たすき掛けで新潟県立新発田病院に勤務しています。多忙な日々ですが、1人の医師として責任を持って業務に当たらせていただく機会が多く、やりがいを感じています。

アスリートを心身共に支えられる医師に

―今後のキャリアはどのようにお考えですか? また、医師を目指す方、特に何かとの両立に悩む方へのメッセージをお願いします。

私のアスリートとしての立場や経験を活かして、アスリートを心身共に支えられる医師になりたいと思っています。新潟のスポーツ医学の発展に寄与できるよう、さまざまな場所で経験を積んでいきたいです。
私は単に「好きなものが2つあっただけ」です。もし、同じように2つあったら、好きだと思う自分の気持ちに蓋をせず、目をつぶらず、逃げずに自分と向き合ってください。葛藤や苦悩も2つ分ありますが、それぞれの達成感に厚みが出ます。いろんな人の意見を聞くと迷いも生じますが、その際も、客観的な視点で自分を見つめ、「でも、私はこう思う。私はこうしたい」と自分の意志を確認するチャンスに変えてください。自分の人生、自分なりの正解を、自分で作っていきましょう。

(所属等は執筆時現在です。)